大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成8年(ワ)12845号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告が被告に対し本件実用新案権の期限管理を委任したかどうかについて検討するに、次のとおり、認めることができる。

被告は、平成元年六月二六日、本件実用新案について登録願手続を原告の代理人として行なったところ、平成四年八月一八日、登録査定謄本を得たので、同月二一日、第一ないし第三年分の登録料を納付し、その旨を原告に通知した。本件実用新案は、右手続の結果、平成四年一一月二五日実用新案として新用新案原簿に登録された。本件実用新案の第四年分の登録料納付期限は、平成六年一二月三日までであったが、被告において、実用新案権を管理するコンピューターについて、その処理の都合上、登録料納付期限を元号(平成)から西暦に変換した際、本件実用新案権について、その納付期限を一九九四年一二月三日とすべきところを一九九五年一二月三日と誤入してしまった。そして、被告は、平成七年一一月一〇日、本件実用新案権について、その時期に第四年分の納付を依頼されたわけではなかったが、原告を代理して本件実用新案権の第四ないし第六年分の登録料を納付し、原告にその旨通知して、右立替登録料と登録料納付手数料の支払を受けた。ところが、被告は、平成七年一二月二七日、特許庁から、第四年分登録料が納付期限内に納付されなかったので本件実用新案権は平成六年一二月三日をもって消滅したとして、納付書は受理しない旨の通知を受けた。

被告本人は、実用新案権等について、定められた期間内に登録料を納付して権利の消滅を防ぐことを、これを特に「期限管理」と称して、登録出願手続とは別個の弁理士業務として実用新案権者から委任を受けることになっているが、原告からは、右の「期限管理」について委任を受けたことはなく、本件実用新案権について、登録料の支払をしたのは、サービスであり、事務管理としてしたものであると述べるところである。しかしながら、前記認定の事実によれば、被告は、原告から何の連絡や通知も受けずに、本件実用新案権の第四年ないし第六年分の登録料を納付しているが、単なるサービスであれば、納付期限が到来することを通知することで十分であり、その上で、さらに登録料を納付して権利を保全するかどうかを確認した上で、納付手続をすればいいのであって、納付前に何の意思確認もしないで三年分の登録料の立替払いまでしていることは、その以前に原告から第四年分以降も継続して登録料の納付を委任するとの意思の表示を受けていたものと推認でき、原告が、被告から立替払いの通知を受けて、異議なく、右立替登録料と登録料納付手数料の支払をしていることもこれを裏付ける。このように、納付期限が来た場合にさらに継続して登録料を支払い、権利を保全することが予定されている場合には、その将来の登録料の支払を委任された弁理士は、登録料納付期限前にその納付の手続をして、権利の消滅を来さないようにする義務があるというべきである。

してみれば、被告には、注意義務違反があったといわなければならない。

三  そこで、原告に生じた損害についてみる。

原告は、平成八年一月初めころ、本件実用新案権を永田光治に対し二五〇〇万円で売却する予約をしていた旨主張し、乙第一四号証は、原告の代理人下川昭洋と永田光治の右売買の仮契約書であり、証人下川昭洋及び同永田光治の各証言並びに原告本人の供述も右主張に沿うものである。しかしながら、右各証拠によれば、永田光治は、主として飲食業をなすもので、電機製品の開発や販売をした経験はないところ、本件実用新案権を買い受けるに当たり、一件書類を見ただけであり、試作品は存在しなかったし、製品化の可能性について十分に検討した節もなく、売買代金についても、これを二五〇〇万円とする合理的根拠はないと認められる。また、右仮契約書についても、その内容は、本契約の時期など契約上重要な事項を欠いた杜撰なものであって、右売買には不自然な点が多く、さらに、《証拠略》によれば、被告が、平成八年一月二五日に、原告に権利の消滅を連絡した際には、売買が成立しているという話は出なかったと認められ、これらによれば、本件実用新案権を永田光治に二五〇〇万円で売却する予約が成立していたかどうかは、はなはだ疑問があるところであり、これを容易く認めることはできない。

してみれば、右売買を前提とする原告主張の損害は、これを認めることができない。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本哲泓)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例